あちら側とこちら側
コンビニ人間をパトロンから貰った。「あんたはこちら側やからこれ読んでみ」と押し付けられたに等しいが、耳に目に入っていた本を貰えたので悪い気持ちわなかった。今日の帰りに喫茶店で流し読みをしようと思ったが、流し読みができない内容だった。ただ一言「強姦する」が強く強くぼくに染み付いた。
物語の中心がめくるめく変わるわけでもなく、ただ彼らがぼくを強く照らした。
物語を読み自分の姿を本の中に感じた。振り返れば影が伸びていき、彼らのような未来が見えた。読めば読むほど頷き、彼の考えに理解の兆しが見えた。そすれば同じように影は伸びていき、自分の影が大きく伸びはっきりとする。
物語という太陽がぼくの影を伸ばし続けている。その異様さに流し読みを何度もやめ、煙をくゆらし落ち着くしかなかった。
太陽がぼくに近いものだと感じれば感じるほど影は伸びていき、胸の中は熱さで気持ち悪くなる。
彼の言うあちら側の人間が社会がぼくを強姦する。その言葉は痛いほどよくわかった。彼の考えに何度も自分が重なった。多くの人が彼を異質と捉え、気持ち悪いというだろう。だが、彼と彼女の見る目線が自分とあまりに似すぎていた。
誰しもが誰かの目線を気にし、誰しもが大きな掟、不文律に従い同じ仲間を選び仲間を増やしていく。しかし掟の外を忌み嫌う。仲間の外にも部落者の仲間があり、そこから落ちれば彼と彼女の世界がある。
ぼくはそこに恐怖し、喉をしぼめ、ゆっくりと息をするしかなかった。
決していい終わりではないこの本はしぼめた喉をコーヒーで広げるしかない本であった。僕はそうであった。あなたも自分の影を感じればあなたはこちら側だろう、彼を彼女を異質と見れば君はあちら側なんだろう。