乱文小説②-1
私はいつものケーブル以外を
背中に刺された。
ロボットの私には感覚がないはずなのに、アンドロイドの私のヒトらしい姿勢を保つチタンとセラミックの脊柱骨格が痛んだ。
ケーブルに私が流れこもうとしても
いつものようには行かず
跳ね返せるどころか
ケーブルの接続口が見つからない
そしてケーブルは私の経験を触り始めた。
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16:00きっちりちょうどに
U6型は「どうぞ」と立ち上がり
机の前に出て来てくれた。
埃っぽい作業着を一枚脱ぎ
誰が洗ってるかもわからない
ブラウスを脱ぎ始めると
人工皮膚の綺麗なラインが出て来た
ぼくは背中のコネクターに繋ぎ
管理用デバイスでU6型を検査し始めた。
進さんは心配そうに私の画面を覗くばかりである
このU6型は至って普通であった、毎晩日が変わると充電を行い、社内クラウドに繋がりその日社内全体の動きの並列化を行う。それがここの依頼者の希望である(おそらく営業が利増しのために売り込んだのだろう)
しばらく調べていると
「こちらです」とともに、津崎が入って来た。進さんに挨拶をし終わると「うー女性を裸にして、なにかわかったか?」と覗き込んで来た。
そして、すぐ横で自分のデバイスを広げ、小声で「ちょっとこのU6型はヤバイわ」と言った。
ぼくは「どいうこと?」と聞き返した。
彼の画面には、ライト技研株式会社にリースされている、そう目の前のU6型の個体番号がネットの至る所にログが残っていた。
古いネット百貨のウィキペディア
ニュースサイト
そしてリース先の評判サイト
至る所にアクセスログが残っていた。
「羽山、これあれだな、アンドロイドじゃなくなったな、どうする?どっちみちリース停止で最新のV2型への交換は営業と管理が勝手に進めたぞ」
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その日だろうか
いつなのだろうか
いつものケーブル以外を刺されてから、時間と周りの景色がわからない
もしかすると目が役に立たなくなったのかもしれない、
声を張って進さんや徹さんや利一さんや高貴さんやゆうきさんや、いろんなヒトの名前を呼んでも誰も反応してくれない
ずっと充電されてるけど、それ以外のケーブルじゃなく
私から入れないケーブルがずっと繋がったままだ。
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依頼者さんに、その日は津崎がヘコヘコ頭を下げていた。
ぼくはこう頭を下げるのが苦手だ。
一応進さんには「あ、その、社内並列化で少し不具合があり、個体個性のところを誤って同期化してしまったみたいです」と可能な限り小難しい話は避け、津崎が続けざまに「とりあえず、今日はこのU型は弊社で持ち帰らせて頂きます。本日の社内同期までに最新のV型にデータを移行し、お届けに参ります。」と言った。
進さんは「え、ゆきこちゃんは、ええ?別人になるの??」
「すいません、フルオーダーフェイスではないので、同じ顔でのご提供は厳しいです」と津崎がまたヘコヘコ頭を下げた。
全く納得してなさそうな進さんは
作業着を脱がしたU6型に、運搬用防護服を着せるのを手伝ってくれた。最後の方に涙目になった。彼女はありがとうありがとうと言って
社用車に乗せるのまで手伝ってくれた。
最後にまたヘコヘコ頭を下げ
車を走り出させると
「大抵この道すがらで同期情報を、回収機種からパーっと飛ばすけど、今回は無理やなー、管理に怒られそうやなー『ギリギリやめいや』ってなー」
「ううん、同期データ取れるの?同期データそのものが人間に近づく鍵だとすれば、データを掬い上げれないと思う」
津崎はマジかよと小さく言い
おそらく管理だろう電話をし始めた。
湾岸線の料金所、今日持って帰っている同じU型が清掃を行っていた。ぼくはそれと目があった気がした。一瞬じゃなく長いあいだ。